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Vol.5 「オペラに人の心を読む」禹先生に文教の院生がインタビューを行ってきました。

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● 河合隼雄先生の下での学び

院生:
それでは次に、先生が臨床心理学を始めたきっかけをお聞かせ下さい。
禹:
私が心理学の中でも臨床心理学に惹かれたきっかけはね、色んな心理学の先生の姿を見たときに、臨床心理学を専門にされている先生方が一際、人柄が良かったのが理由かな。人柄に惹かれたね。
それと、臨床心理学を少しかじってみて、これであったらやりがいのある仕事であると感じたからかな。
院生:
先生が、臨床心理学を少しかじった時期とは、大学院時代ですか?
禹:
そうですね。
院生:
先生は、韓国ご出身ですよね。経歴を教えてください。
禹:
学部は、韓国の大学で一般的な心理学科を学びました。そして韓国で大学院修士課程に進み、カウンセリングなどを学びました。その中で、当時の韓国の状況からすると、より専門的に学ぶためには韓国では物足りないという思いが生まれてきました。早いうちにもっと進んだ心理学を学びたいと思い、日本の河合隼雄先生のもとに留学したんですね。そして修士課程をもう一度最初からやり直したんです。つまり、韓国で修士課程を1年終えて、京都大学大学院で修士課程から入りなおしたのです。
院生:
それでは、先生は韓国にいらっしゃる時から、河合隼雄先生をご存じだったんですか?
禹:
当時韓国には、河合隼雄先生の本は一冊も翻訳されていなかったんです。河合先生の名前だけは、韓国の偉い先生方は知ってたようですけど、学生は知らなかった。私自身が河合先生のことを知ったのは、留学を本格的に考え始めた時からですね。色んな人から河合先生のことを聞いて、この人の下で学びたいと思いました。
院生:
実際に河合先生の下へ行っていかがでしたか?
禹:
最初は、韓国と日本の大学院の臨床心理学の教育システムの違いに驚いて戸惑いましたね。特に日本が実践中心というのが驚きでした。それは、新鮮というか、衝撃的なことでした。雰囲気があまりにも違っていて、慣れるのにしばらくかかりました。でも後からこういうのが、訓練なんだというのがわかりました。それからは、その教育システムに感激しましたよ。
院生:
韓国から日本に来られて、言葉が違うことはいかがでしたか?
禹:
それはもちろん色々ありました。
クライエントさんからもいっぱい教えられました。今でも忘れられませんね。ものすごく当時のクライエントさんに感謝しています。

● 社会学の手法で臨床を捉える

院生:
先生の研究内容を教えてください
禹:
研究内容は、ユング心理学です。
ユング心理学は、象徴(シンボル)をキーワードにして人間の心を理解する心理学です。
人間の心を理解するというのは、意識という一面的な理解では足りなくて、無意識を理解してこそ、人間の心の全体を姿がわかるというスタンスをユング心理学はとっています。
そして無意識を理解するためには、言葉のやりとりだけでは限界があるので、象徴や象徴性のあるものを理解することが大事ですね。 よって私は、象徴的な意味あるものに興味を持っています。
象徴的な意味があるものの中でも特に夢、それから物語に興味をもっています。
そして最近興味をもっているのは、オペラですね。今までオペラそのものを心理学的に分析の対象とした人はあまりいないのですが、スイスにいるユングの弟子のノイマンがモーツアルトの『魔笛』を心理学的に分析した論文が1本だけあります。
だから、最初のころは、オペラが果たして心理学的な研究の対象になり得るのか非常に心配でしたね。
でも少しやってみて、これは十分に研究の対象となることがわかりました。
だから今はオペラにもっと力を注いで研究していこうと考えています。
院生:
では、先生はオペラの特にどのあたりを分析対象として捉えているのですか?
禹:
オペラの物語の部分を分析の対象として捉えています。
音楽のそのものを分析することは、私は素人なのでしません。本当はやりたいんですけどね。
オペラが特に迫力があるのは、音がついているでしょ?綺麗な声、楽器の演奏などですね。それに物語をのせるとものすごい伝達性というか、普通に物語を読むときとはまた違う次元の伝達性なのですよ。
物語を読むだけでは、伝わりにくかったメッセージが、音にのせられた物語を聞くと、いっぺんに分かることがあるんですよ。
人間の矛盾とはこういうものなのかとか、人間が悩むというのはこういうことなのかなとかが、分かりやすくなるんですね。
例えば、娘を失った父親の悲しみとかが、こういうものなのかということがいっぺんにして伝わります。これがオペラ独特の素晴らしさですね。
院生:
ミュージカルもそれに近いものがあると思うのですが?
禹:
興味はあって、研究したいのですが、今のところまだ手は出せてないです。
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