Teacher's LinkTop 臨床心理学科 教授 高石 浩一
chapter I DSMが分類する人格障害という概念

 臨床心理学に関わる人間として、私は「3足のわらじ」をはいていると思っています。一つは研究者として。次に、カウンセラーとして。そして教育者として。
 たとえば、研究だけに没頭していても、そこから導き出せる成果は机上の空論かもしれません。逆に、カウンセリングだけに力を注いでいても、そこに理論的な裏づけがなければ危険です。研究と実践にバランスよく取り組み、得られた学問的な収穫を学生の方々に還元することが私の仕事だと考えています。
 このように臨床心理学の追究に、理論的な研究と実践は欠かせません。私がテーマとして関心をもった自己愛性人格障害の問題も、臨床心理の研究をはじめたころに、そうした症例に分類されるような方をカウンセリングした体験が一つのきっかけになりました。
 では、自己愛性人格障害について触れる前に、まず「人格障害」という概念について説明しておきましょう。

 人格障害とは、本人の性格が原因となる障害のことです。簡単に説明すれば、性格が極端に偏っていて、適切な対人関係を築くことがとても苦手な人、といえるでしょう。人格障害といわれる方は、自己と他者を切り分けて考えるのが苦手だったり、感情が不安定だったり、また衝動を抑えられないといったふうに、人間関係が不安定になりがちです。
 人格障害は、症状のあり方によっていくつかに分類されます。たとえば、自閉的で妄想をもちやすいといった妄想性人格障害や分裂病質人格障害。あるいは感情が不安定で激しい境界性人格障害や自己愛性人格障害、また演技性人格障害。ほかにも回避性人格障害や強迫性人格障害などがあります。
 これらの人格障害の診断基準となっているのは、1980年代にアメリカの精神医学会が定めたDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-V「精神障害の診断と統計の手引き」)というマニュアルです。それまであいまいにされていた精神疾患を明確に定義して分類し、それぞれの症例にどのような治療が有効なのか、統計をとってデータを蓄積しようという目的のもとにDSMはつくられました。またその背景には、精神分析や精神医学といった領域の発展と革新があり、それぞれの役割と有効性を明らかにしたいという社会的なニーズがあったことも見逃せません。

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