あーゆす11号2頁

『愛するということ』
教授(教育心理学)  藤 本 正 信

かつて小生が学生であった頃、Erich Fromm(1900-1980)の"The art of loving"という本を読んだことがある。「愛すること」なんて誰もが経験する、ごく普通のことゝ考えていたが、フロムのこの本を読んで、少なからず驚かされたことを記憶している。

その本の中で、真実の愛の特徴を語っているが、その要点を簡単に紹介しようと思う。

まず第一に「愛すること」は与えることであるという。物質的に考えると「与える」ことができるためには、まず自分が与えることのできるものを所有していなければならないことになる。すなわち「裕福」でなければならないことになる。それでは「裕福」でない人は愛することが出来ないのであろうか?

この点についてフロムは次のように言っている。「たくさんもっている人が裕福なのではなくて、たくさん与えることが出来る人が裕福なのである。なにかを失うのではないかと心配し、思いわずらっている貯蓄型の性格の人は、どんなにたくさんのものをもっていても、その人は貧乏人なのである。と言うよりも貧乏人になってしまった人なのである。」

したがって裕福であるかどうかということは、その人の所有の量にあるのではなく、精神的な豊かさにあることになる。みなさんは「貧者の一灯」という言葉を思い出すでしょう。(知らない人は仏教の勉強をもっとして下さい)

精神的に豊かであるということは、それではどういうことを意味するのか?

フロムは「自分自身を、自分自身のもっている最も貴重なもの、自分の生命を与えるのである。……自分の喜び、自分の興味、自分の知識、ユーモア、ときには自分の悲しみをわかちあうのである。自分の中にあるすべてのものを表現し、相手に与えるのである。」

こゝでもみなさんはおそらく「布施」という言葉を思い出されたことでしょう。つまり「慈悲」のこゝろがその根底にあってはじめて人は人を愛することができるものであるということになる。

第二番目の特徴は「世話」(care)であるという。「花を愛しているという人が、花に水をやるのを怠って、枯らしてしまった場合、その人の花を愛しているという言葉は真実であるかどうか疑わしい。」

第三番目の特徴は「責任」(responsibility)である。この responsibility は able to respond あるいは ready to respond (いつでも対応できる)ということである。

第四番目は尊敬(respect)である。この語源はラテン語の respicere (ありのまゝに見る)ということで、自分の都合や、欲求を交えて見るのでなく、欠点は欠点として受け止め、その上でその人の個性の一部と見ることが、その人を"ありのまゝに見る"ことであり、その人を尊ぶことになるのである。

第五番目は「知識」(knowledge)である。何を尊び、何を尊んではならないかを判断するのは知識による。

子ども達に歌を歌ってやりたいと思っても、それを知らなければ歌ってきかせてやることはできない。面白い童話を話してやりたいと思っても、そのもちあわせがなければ与えることはできないのである。

以上、フロムの「愛」の特徴をごく簡単に紹介してみたが、みなさんはこれから社会に出てもいろいろな場面に出会うことと思いますが、この真実の「愛」の特徴を胸に人生を力強く歩んで行かれることを心から望んでおります。

『愛するということ』 エーリッヒ・フロム 著

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