あーゆす13号1頁

エントロピーと食生活
図書館長・教授  末 次 信 行

ある書物との出会いが、その後の記憶のどこかに残っていることがある。そのような書物の内の一冊が『エントロピーの法則 : 21世紀文明観の基礎』(ジェレミー・リフキン 著 ; 竹内均 訳 / 祥伝社)である。

エントロピーの法則というのは、熱力学の第二法則であり、物質とエネルギーは一つの方向のみに、すなわち使用可能なものから使用不可能なものへ、あるいは、秩序化されたものから無秩序化されたものへと変化すると表されている。第一の法則は宇宙における物質とエネルギーの総和は一定というエネルギー保存の法則である。熱力学の法則に出会ったのは大学2回生の頃であった。何となく分かったような、分からないようなままに、かなりの年月が過ぎてからこの著書にめぐり合ったのである。そして、その後エントロピーについての多種類の解説書が発刊される契機となっただけに忘れられない1冊となったわけである。

著者はエントロピーの法則を裏付けにして、「あらゆるテクノロジーは環境をより無秩序にする」、「新技術は、必ず以前より悲惨な副作用をもたらす」、「自然の生産を上まわりすぎる消費は恐怖である」、「エネルギーは有限であり、社会の進歩も永遠ではない」などの論説をもって20世紀社会の問題点を指摘している。これらを総括して、20世紀社会は物質的な豊かさを生み出し、あらゆる人間的な欲望を満たすために、より高いエントロピーの流れ(物質的進歩、能率、専門分化など)を重視した、無秩序な高エントロピー社会であり、21世紀では「より少ないことは、より豊かなことだ」という言葉で表される文明観に基づいた低エントロピー社会へ移行する必要性を論じている。

人類が21世紀に食べていけるかどうかという食料需給を考えてみると、毎年、約1億の人口増に見合う食料生産が可能なのか先行きが見えてこないし、先進諸国の食生活の有りようがその可能性に大きく関わっていることはいうまでもない。食品産業が膨大なエネルギーを消費する大産業になり、それにともなって食生活の多様化という様相が現れた。輸入食品、加工食品、冷凍食品、インスタント食品、ファーストフード、外食・中食・内食など、何をどのようにして食べるかということに、ありとあらゆる自由な選択ができる高エントロピーな食生活になっているのである。

今年、6月に食育基本法が制定され、「食事バランスガイド」として食事の望ましい組み合わせやおおよその量がわかりやすくイラストされるようになった。このガイドラインと自分のとっている食事の内容を比較して何が不足しているのか、何を摂りすぎているのかを知ることで少しでも低エントロピーな食生活、いわゆる健全な食生活が営めるようになりたいものである。

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