あーゆす14号1頁

新たな食育時代の幕開け
図書館長・教授  末 次 信 行

「食育」について、5割近くの人は言葉も意味も知らない…内閣府が成人3000人に実施したアンケートの結果である。食は生命を維持する基本であり、健全な食生活を営むための食育を推進しようとして、昨年6月に食育基本法が制定されたが、理解はなかなか進んでいないようである。「食育(食教育)」という言葉の定義は明確にされているわけではないが、子どもを教育する際に知育、徳育、体育などとともに、明治時代には教育の重点項目として取り組まれていて、その後も、家庭や学校での躾教育に引き継がれていった。

食が生命の根源であるがゆえに、人がはるか昔からの生活体験により学び知ったことを基にして食の有りようを著した多くの書物の中で、代表的なものが貝原益軒(1630-1714)の「養生訓」である。この書物に記されていることは、今日の食生活にそのまま当てはまることが数多くある。「飽食をさけよ、珍味の食に対すとも、八九分にて止むべし」「口腹の欲にひかれて健康を失うな」「肉類は穀類より少量用いよ」「鮮魚は滋養が多い」「新鮮なものを食べよ」「晩食は朝食より少量にすべし」「暖かなものを飲食せよ、冷飲冷食をさけよ」など、当時の食生活指針ともいうべきものである。また、食する時の五思(考え方)の中には、「この食の来たところを思いやり、恵みを忘れるな」「この食を農夫が勤労して作り出した苦しみを忘れるな」「世に貧しき人多し、飢えて死する者あり、糟糠の(貧しい)食でも幸いとせよ」など、食物のありがたさ、もったいなさをも説いている。

厚生労働省が栄養・運動・休養のバランスのとれた健康的なライフスタイルを確立するための国民の健康づくり対策をスタートさせたのは昭和53年である。その後、「アクティブ80ヘルスプラン」そして、平成元年に開催された「食を考える懇談会」が起点となって21世紀に向けての健康づくりを目指した食育時代の到来となったわけである。食、健康、栄養に関する情報があまりにも多く氾濫している現代の食は、何をどう食べるのか、これといったモデルがないだけに、自分が食べるものと食べ方をきちんと選んで健康管理ができるための食育が不可欠となってきたのである。

食育で何を教えるのか? それも乳幼児期から学童期に教えるほど効果が大きいといわれている。静岡県のある保育園では「健康で子どもらしい子ども」の育成を目標にして、食育を中心とした保育が実践されている。この園での食育は、(1) 食物選択能力、(2) 料理能力、(3) 味覚育ての能力、(4) 元気な体のわかる能力、(5) 食べものの育ちがわかる能力、の五つの能力の開発を目標とし、それぞれの目標を達成するための体験学習がネットワークとなって、子どもたちの日常生活に規律とリズムができていくこととなる。文部科学省は4月からこどもの食生活の乱れをなくそうと「早寝、早起き、朝ごはん」をキャッチフレーズに、生活リズムを改善する活動の支援・推進に乗り出す。園の保育はこの活動を先進的に実施しているといえる。

食育の原点は体験にある。小学生、中学生、高校生と年齢に応じた食育プログラムは無限にあるといっても過言ではない。そして、自分のための食育は生涯にわたって続いていくことはいうまでもないことである。

参考文献
『養生訓』 岩波書店(ワイド版岩波文庫32)
『食育時代の食を考える』 中央法規出版
「食育の急所」 『月刊消費者』特集号

戻る

京都文教大学図書館 京都文教短期大学図書館
〒611-0041 京都府宇治市槙島町千足80番地

Design Concept by MoogaOne