あーゆす16号1頁

伝統食品から学ぶ食べ物情報
前図書館長・教授  末 次 信 行

食に関する情報がメディアにまるで洪水のように溢れている。消費者が知りたい情報は多岐にわたるが、とりわけ、食品の安全性、健康食品、サプリメント、ダイエットなどが注目の的になっている。しかし、食の世界が複雑化して、消費者が自分に必要な情報であるのかどうかを自分で判断するのが極めて難しくなってきている。食べ物には多くの食品成分が含まれ、何をどう食べればよいのか、健康を維持するために食べ物に関する正しい知識は子供の頃から教えられ、蓄えられねばならない。そのための教材としてふさわしいものの一つが伝統食品であろう。

伝統食品といえばどんなものが思い浮かぶだろうか。我が国には、みそ、しょうゆ、豆腐、かまぼこ、かつお節、漬け物など多くの伝統食品がある。これらの食品はその土地の産物や、気候、風土を生かして作られていて、人々の生活の知恵や技と工夫により、それぞれの食品の形態、風味など、本来の特徴が守り続けられているのである。

伝統食品を作るには、いくつかの共通的な手法が用いられることが多い。たとえば、腐敗・変敗防止に食塩で野菜を漬ける、乾燥してわかめや魚の干物を作る、保存性を高める方法。我が国の気候・風土が微生物の繁殖に適しており、かび、酵母、細菌の作用で原料とは違った独特の風味を生み出す発酵法。微生物の作用を何ヶ月、何年といった長い時間をかけることにより、風味をよくし、よりおいしくすることのできる熟成。豆腐、かまぼこ、ちくわでは原料の不要部分や不快な味を取り除いて食べやすくする方法、などが挙げられる。これらの方法は簡単な道具があればいろいろな食品材料に応用でき、子供たちでも楽しみながら作ることができるかもしれない。そして、その土地本来の伝統食品を手作りしたり、味わってみたりすることで、食品についての情報・知識の正しさ、必要性を認識するきっかけになるのではないかと思うのである。

今日では伝統食品といえども、すべて手作業であった当時とは異なり、機械化による大量生産、消費者の嗜好の変化に合わせた製品作りで、伝統食品の地方性、季節感、独自性が失われつつあるがために、正しい食べ物情報の普及の妨げになりはしないかという問題点もある。

NHKの、ある食べ物番組をよく見ているが、熊本県のある地方で作り続けられている麦味噌漬けの漬け物には大いに耳目が引きつけられたのである。だいこん、にんじん、きゅうりなどをていねいに塩漬けし、その後、水で洗って脱塩するいっぽうで、麦麹から手作りで麦味噌を作る。コウジカビが発酵する様子を肌感覚で探る手作業がすばらしい。何ヶ月も漬け込んでやっと出来上がるのである。その映像の中に一瞬、かいま見えた条文があった。「(1) 安全であること (2) ごまかしのないこと (3) 味のよいこと (4) 品質に応じた妥当な価格」よい食品とはこの4条件に当てはまるものであるとし、伝統食品を作る人々の熱意が映像の中に溢れんばかりであった。そして、これらの漬け物がその地方の日々の食生活、食文化を支え続けているといっても過言ではないのである。

何も知らない子供が、何気なく買った食べ物がいつもよい食べ物とは限らない昨今の世の中である。家庭、学校、地域社会で、よい食べ物の情報・知識を子ども達、若い人達に普及させていくにはどうすればよいのか、伝統食品がその一助になるのではないかと思うのである。

『伝統食品の知恵』 藤井健夫 / 柴田書店
『伝統食の復権』 島田彰夫 / 東洋経済新報社
「たべもの新世紀 : 辛さすっきり山里のみそ漬け」 NHKテレビ総合(放送2007.2.4)

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