あーゆす18号3頁

夢に向かうこと 自分と闘うこと
児童教育学科・講師(学校カウンセリング)  今 野 芳 子

「あきらめなければ夢はかなう」 今回のマラソンにこのメッセージを伝えたかった。これは平成20年3月9日名古屋国際女子マラソン出場の高橋尚子選手のことばであった。結果は自己最悪の27位であった。

何度かの不運を乗り越え今回出場した高橋選手に沿道の人たちは大きな声援を送った。きっと高橋選手がオリンピック出場の切符をにぎるであろう姿を夢みていたに違いない。シドニー五輪金メダル、翌年ベルリンマラソンでは女子で初めて世界最高を記録、、世界で一番という気持ちが満たされる経験をして以後の自分との闘い、、、、、失速してアテネ五輪代表を逃し、小出監督と決別し、今回の北京五輪は最後の挑戦であった。しかし先頭集団からはずれていく。テレビカメラはサングラスをかけうつむき加減に走る高橋選手の姿をごくたまに写しだす。

黙々と走る高橋選手の胸中はどうであったであろう。家族や支えてくれたチーム、後輩からの大きな期待、様々なハンディを乗り越えテーマを持って臨んだマラソンであるのに、ずるずる後退せざるを得なかった自分自身。いったい何が起こったのか、、そしてどうしたいのか、、、本人しか知りえない、得体の知れないモンスター(怪物)が胸の中を去来していたのではなかったか、、、。

しかし翌朝の新聞報道はさわやかだった。高橋選手がゴールした後サングラスをはずし満員のメーンスタンドとトラックに向かって一礼する写真があった。42キロを走りきったこと、不調に陥りながら、あきらめちゃだめだ、と何十回何百回何千回繰りかえし出場したこと。「残念だけれど結果を受け止めないといけない」、「まだやりたいことがあるから走り続けたい」と言いきったこと。強靭な人である。自分の中の得体のしれないモンスターとどう闘ったのだろうか、、、、、。「私からメッセージを伝えられなかったけれど、沿道のみんなの声援からパワーをもらった」、この言葉からうかがえる気もする。金メダリストのQちゃん、世界で一番を目指したQちゃんその人が、自分の夢と自分と闘い、夢が破れても大人の女性として発言している姿に感動した。

その世界で一流になった人には誰をも惹きつける不思議なものがある。文学 美術 音楽 映画 スポーツ 学術しかり。なぜ惹きよせられるのか、、、、。それは一流となるまでのプロセスに必ず紆余曲折があり、スランプや失敗に落ち込みそこから、また這い上がってきた体験が、人格の器の大きさや暖かさになり、作品や演技やプレーや発言、叙述にかもし出されるからではなかろうか。だから、読む人 聞く人 見る人 触れる人に夢を生き、自分と闘うエネルギーを与えるのではないだろうか。

私にとって「本」との出会いは、生きていく夢とエネルギーとの出会いであると言いえる。「生きている限り夢に向かいたい。夢に向かっていてもそれは自分との闘い。自分との闘いに負けなければ、たとえ夢が叶わなくとも、後悔しなくてすむじゃない」 『フジ子・へミングの「魂のことば」』(清流出版)の一節が今の私の生きるエネルギー源になっている。

 

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