あーゆす18号5頁

最優秀賞  『夜と霧』 V. E. フランクル 著 ; 池田香代子 訳 / みすず書房
臨床心理学科4回生  嶌 田 裕 子

「心理学者、強制収容所を体験する」という原著の表題の通り、ユダヤ人精神分析学者がナチス強制収容所での日常をつづった本書は心理学的観点から静かに当時の事実を物語っている。フランクルの「偉大な英雄の苦悩や死を語るのではなく、おびただしい大衆の「小さな」犠牲や「小さな」死を語る。」という言葉通り、そこにはスリラー映画のような恐怖も、生々しい表現による描写もなく、ただ、静かに淡々と現実が書き記されているばかりである。だからこそ、なぜ強制収容所での強者は弱者に対して残酷な振る舞いができたのか、なぜ被収容者達は生きる選択をし、そしてしなかったのかを冷静に分析することができ、読者に感動を与え世界的ロングセラーとして読みつがれたのであろう。

原著の初版は1947年に、改訂版は1977年に出版されている。2冊を読み比べ、初版と改訂版でのフランクルの心境の変化を推察しても面白いのではないだろうか。

心理学的視点のみならず、文化人類学的視点や現代社会学的視点から読んでも充分に読み応えのある作品であり、「人間とは? 生きる意味とは?」という素朴で根源的な疑問に対する答えを導き出す手がかりを与えてくれる一冊である。

 
佳作  『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』 遥 洋子 著 / 筑摩書房
臨床心理学科4回生  森 本 美知子

この本は学ぶことの喜びにあふれている。「その人が出した本について本人とゼミをする。こんな恵まれた環境はない。」 彼女は知の集結する所はある種の桃源郷ではないかという。まったく同感である。だが学問はロマンチックなものではない、格闘技なのだ。研究者どうしの論争に、「勝敗を分けるプロの勝負を、生で味わえる環境に心から感謝」する。

しかし、いつまでも見ているだけというわけには行かない。1年でゼミ3年分の文献を読んでよけいに分からなくなったり、ゼミ発表の準備に身体に異常がでるほど苦しんだりしながら学問と格闘する。そして、学問に感動し、感動している自分に感動し、感動を創り出す上野千鶴子に感動する。現在学生である私は、以前にこの本を読んだ時以上に共感を覚える。熱狂的なタイガースファンの彼女は、論文を野球観戦のようにわくわくしながら読む。「苦痛は感動への序章、持続は感動への期待、集中は感動への執着」だという。

堅い本ではない。何度も声を上げて笑い、少しほろりとする感動本である。もちろん表題のケンカの仕方を始め、何を学んだか、何を学ぼうとしているかが具体的に書かれていて興味深い。

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