あーゆす19号2頁

人間は<猛獣>である
京都文教短期大学図書館長
児童教育学科・教授(幼児教育学)  照 屋 敏 勝

大阪の天王寺動物園で「戦時中の動物園」展(8/12〜24)が開かれた。平成18(2006)年から毎年8月に開催されている。朝日新聞に宮下実園長の話が載っている。「戦後60年が過ぎ、戦争関連の催しが減りつつあった。そういう時だからこそ、動物園から戦争の悲しみを伝えようと、職員たちが考えた」ということである。

これは動物園のすぐれた企画である。戦争の悲しみは人間だけではない。動物や植物も同じである。会場となっている「レクチャールーム」には「猛獣処分」として殺害されたピューマ、トラ、ヒョウ、ライオン、ホッキョクグマの剥製が展示されていた。生きているかのごとき一頭一頭と対面していると、彼らの聲や叫びが時空を超えて伝わってくるようであった。「われわれ動物は動物園を訪れる多くの人間の大人や子どもたちに楽しみや癒しや笑いを与えてきたのに、不都合になったらわれわれを殺すんですか。人間はあまりにも勝手すぎる。その"猛獣"を殺す人間こそが猛獣じゃないですか」と、問い詰められているような気がした。

天王寺動物園では、昭和18(1943)年の9月4日から9月23日の10日間で、チョウセンオオカミ、ヒグマ、ハイエナ、ツキノワグマなど10種26頭が毒殺、薬殺、絞殺などの方法で殺害されていった。しかも、殺害の役が飼育係に課された。そのことも残酷である。動物園からは人間によって「猛獣」に分類された動物たちが次々に消されていったので、当時の人々は「動物園」と呼ばずに、「静物園」とか「家畜園」と揶揄(やゆ)していたようである。

私は東京の上野動物園にも電話できいてみた。そこでも、天王寺動物園と同じように、8月17日から9月1日までの2週間で、ゾウ、アメリカヤギュウ、クマ、ライオン、トラ、ガラガラヘビなど15種27頭が毎日のように殺害されていった。

絵本『かわいそうなぞう』(土家由岐雄 文 ; 武部本一郎 絵)は、戦時下の上野動物園における3頭のゾウの「餓死」という名の殺害をめぐる悲しい物語である。ジョンは食べ物と水を与えられなくなってから13日目に餓死した。トンキーとワンリーは20日目に餓死した。まさに人間による動物の緩慢なる虐殺である。

『おこりじぞう』(山口勇子 原作 ; 四国五郎 絵)は、ヒロシマで被爆した少女の死の物語である。

「女の子は、ゆらゆら ゆれるように ちかづいて やっと おじぞうさんの ところまできたが、もう いっぽも あるけないという ふうに、ばったりと うつぶせに たおれた。」そして、「みず…、…、みず…」と、かすかな声を発した。しかし、どこにも水はない。おじぞうさんは悲しみと怒りの涙を流して、その涙を少女の口に注いだ。少女はかすかに笑って息絶えた。おじぞうさんは仁王のような顔になって、その怒りに耐えかねて、グサグサ と粉々に自壊してしまった。おじぞうさんも被爆していたのだ。

戦争と平和に関する絵本や児童文学は日本では600種類ほど発行されている。それほど多様な関心と問題意識が持続されている。

(てるや としかつ)

 

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