あーゆす20号2頁

世界人権宣言60周年と本学人権図書コーナーの開設について
現代社会学科・教授(国際協力論)  島 本 晴 一 郎

国連の世界人権宣言が採択されて60周年が経過した。世界人権宣言とは1948年12月、国連のイニシャティブにより採択された人権にかかる宣言文書のことである。これは、戦前から第二次大戦中にかけて見られた悲惨な人権侵害を二度と繰り返すことのないようにとの各国の強い反省に基づき、新たに平和で民主的、かつ人権が尊重される世界社会の実現を願って採択に至ったものである。

人権を守るという理念が全世界的に採択されたにもかかわらず、この60年の間には予想もつかぬような様々な人権問題が勃発した。たとえば、国家権力の横暴による民主的な運動への弾圧、民族粛清などの暴挙、並びに人種や宗教問題に端を発する差別の蔓延等が発生した。また、経済のグローバル化に伴う貧困層の窮状の深刻化と格差の拡大、経済効率主義に伴う弱きものの切り捨て等、すでに民主化が進んだ開かれた国々においても、その枚挙にいとまがない。その一方で、アパルトヘイトが撤廃され、性差に伴う社会参画機会の障害の克服が進みつつある。またITを利用した世界市民運動の連携と監視が数多くの国家権力の横暴を暴き非難し、人権にかかる世論の意識を高めてきたのも事実である。果たして、この60年の間にわれわれは進歩したのか退歩したのかは、意見の分かれるところだろう。しかし、明らかに言えることは、この間に政治経済的な東西対立のくびきが崩壊し、世界経済が一体化するにつれ自由で開かれた社会が現実となったことである。それに伴って政治権力よりも自由の根底となる個々の人間の尊重という問題意識が共通理念として徐々に広がりつつある点ではないか。

このように言わば、国の内外を問わず個々人の経済・社会・文化的権利を尊重するという人権意識が定着するためには、教育の果たす役割が不可欠である。国連は93年の人権委員会における「ウィーン宣言」を経て、95年から2004年に至る10年を「人権教育のための国連10年」と冠した。これにより、各国に対して、それぞれの教育機関や職業研修、公的、非公的な学習の場において、人権教育を促進するため効果的な戦略を策定することを呼び掛けたのである。

このような流れの中において、われわれは世界人権宣言の60周年を迎えたわけであるが、この機を新たに、人権教育の在り方に一層の工夫を凝らすべきだろう。我々教育機関にとって必要となってきているのは、具体的な人権侵害の事例に則して、地についた人権のコンセプトとは何なのかを初等、中等、高等、大学、大学院のそれぞれのステージにおいて、自発的に若人が学べるような仕掛けであろう。また、世界の先進諸大学においては、そのような具体的な事例(ケーススタディ)に基づいた人権教育をカリキュラム化する動きがみられる。本学においてもカリキュラムのみならず、課外研修活動、意識調査や懸賞論文などを通じて学生の自発的な人権意識の啓発に積極的に力を入れてきたが、今後ともさらに強化をしていく必要があろう。今般、本学大学図書館において100冊に及ぶ内外の主な人権問題を扱った書物を収蔵した「人権図書コーナー」が開設されたが、これはその意味では小さくとも意義ある一歩である。このコーナーの活用により、内外多方面での人権問題への具体的アプローチを本学学生が自発的に学びとることができるとすれば、これは素晴しいことである。これを嚆矢にさまざまな読者がこのコーナーを活用することで、弱者のために尽くし、そのための真実を求め、また自分を省みるきっかけとしていただくことを望みたい。

(しまもと せいいちろう)

 

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