あーゆす5号4頁

『沈黙をやぶって』を読んで
生活科学専攻2回生  小林千寿子

「沈黙」 、重みを感じる言葉だ。「生活科学研究」(ゼミ)のテーマに悩んでいた私に金井朋子先生が勧めてくれた本の中の一冊だった。題名から内容は読みとれなかったが、「沈黙」という言葉にひかれるまま読み始めた。

この本には、いままで公の場ではほとんど語られることもなく、認められることもなかった「子どもへの性暴力」を証言し、告発する22人の女性達の声が綴られている。女性達はまだ幼児や少女のころ、近親者や知人やあるいは、知らない相手から受けた性暴力の体験を何年、何十年と経ってから告白している。その間、ずっと誰にも打ち明けていない人達がほとんどである。それは加害者に口止めされたり、言わないほうがよいと自分自身で思っているなどの理由からである。なかには、助けを求め、打ち明けた母親にさえ「誰にも言ってはいけない」と拒否されている女性もいた。私は、読み始めてすぐ、胸が痛くなり張り裂けそうな思いに駆られた。女性達の体験は、私が今までテレビ、映画、新聞などのマスメディアを通して知っていた性暴力の実態をはるかに超えていた。この本の中の「叔父」という題名で告白している女性は2、3歳ぐらいから父親の弟、つまり彼女にとって叔父に当たる人から性暴力を受け始め、それは中学2年まで続いた。

後になって、彼女は父親の血統には先祖代々父親が自分の娘を強姦するという近親姦が多かったようだと知った。私はこの叔父に当たる人は性暴力が悪いことと分かっていなくて、先祖代々受け継がれ、日常的な当たり前のことと思っているような気がする。彼女の告白を含め、この本の女性達は、まだ何も知らない抵抗もできない少女だったころ、加害者から体だけでなく、心にも深い傷を受けている。彼女達の気持ちは同じ体験をした人達にしか分からないだろう。しかし、私は少しでも理解したいと思い、更に読み進めた。衝撃的だったのは「バナナ」という題名の告白である。その女性は、幼児のころに知らない相手から一度だけ性暴力を受けた。そのたった一度の幼児体験に生涯苦しんできた老女は、「いま初めて文字にして70余年秘めた胸の傷が涙と共に溶けてゆく」と言う。この言葉が私の心に強く残る。これらの体験を綴った女性達は、みんな晴れやかに人生を生きたいからあえて辛い体験を告白し、過去と向きあい、また現実を多くの人に訴えているのだと思う。「沈黙のままがいい」などということはなく「沈黙を破ること」こそが大事なのだということを学んだ。

今まで私は、実際にあるのかと信じることができなかった「性暴力」についてこの本を読み、現実を受けとめられるようになったし、被害者の立場から物事を見て、解決策を考えていくべきだと思った。この本は私に辛く困難な事に対して逃げずに受け止め、誠実に向き合うことが大切だと教えてくれた。これからは私も、性暴力の被害を受けた人達をより深く理解し、心の傷を癒すことのできる側になりたいと思うようになった。この本の後半には、心身の傷を癒すために世界の各地で行われている癒しの儀式や心の傷の癒し方などが書かれている。日本ではまだ少ないが性暴力に取り組むグループや子供の虐待防止センターなどがある。私もこのグループセンターに関わっていきたいと思う。この本は、私にそのきっかけを与えてくれたのだった。

『沈黙をやぶって』 森田ゆり 編著 / 築地書館

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