センター長あいさつ

みなさん、こんにちは。2020年より、臨床物語学研究センター二代目センター長を務めさせていただいています。本センターもおかげさまで11年目を迎え、大変嬉しく思います。

本センターは初代センター長である秋田先生の志とともに誕生しました。その心意気は、ぜひ初代センター長の挨拶をご覧下さい。京都文教大学は河合隼雄先生の指導のもと開学した歴史と文化があります。秋田先生はその師である河合隼雄先生の魂を継いで仕事をして来られました。私もセンター員として、秋田先生の凄まじいお仕事ぶりを体感してきました。秋田先生が開いた道をどのように継いでいくか。
しかしながら、秋田先生からは「自由にやって」と言われましたし、平岡学長(当時)からも「夢をもって」と言われましたので、当センタースタッフもリフレッシュして、新しいスタートを切りました。どのような伝統も、現在に息づいて、初めて新しいものを生み出すエネルギーとなります。現代を生きる私たち一人ひとりの思いがつながって、魂が受け継がれ、新しい物語が生まれていきます。

2020年、世界は新型コロナウイルスの猛威に圧倒され、不安や恐怖の物語で溢れることになりました。感染を広げないために、医学的・身体的には人と人との接触を避けることが必要です。このウイルスが心理社会的に厄介なところは、人と人との距離を遠ざけていくことです。ただでさえ人と人との親しい距離感が遠くなりがちな現代において、私たちはますます離れていくことになるのでしょうか?
このようなときだからこそ、人々の心を支える物語が必要です。このような逆境をサバイブしてきた人類の物語があり、そして現代を生きる私たち一人ひとりの物語があります。物語には人と人とを、そして人と世界を、より深くつなぐ力があります。そのような物語に支えられ、自分の中に息づく他者の存在に気づくとき、身体的なレベルを超えて、私たちの心はより深くつながることもできると思います。

私自身は夢と映画に興味を持って、探求しています。夢は私たちの無意識から生まれてくる物語として、きわめて大切なものです(1)。そして、そのような夢を、この現実の中で表現していく人たちもいます。私の大好きな映画をはじめ、文学でもマンガでも、音楽でも絵画でも、演劇でもお笑いでも、アニメでもゲームでも、心の深いところから表現された物語には、現代を生きる私たちを支える力が秘められています。
しかしながら、よき聴き手がいないと、物語りは可能になりません。この臨床物語学研究センターにより多くの人が集い、夢物語を語り合える場になれば、嬉しく思います。そして、それぞれが自分にふさわしい物語を見出し、創り出していけるような場になれば(2)、とても嬉しく思います。願わくば、そこから共有できるような新しい物語が生まれ、世界に発信していけますように。

誰もが夢を見ます。そして誰もが心の中に語るべき何かを抱えています(3)
みなさんも自分の物語を探し、語ってみませんか? ご一緒できるのを楽しみにしています。

平尾和之

  • (1) 河合隼雄(2002) 『心理療法入門』 より、一部改変。
  • (2) 河合隼雄(1992) 『心理療法序説』 より、一部改変。
  • (3) 相田冬二(2006) 西川美和 『ゆれる』 パンフレット より、一部改変。
平尾和之